歯周疾患治療で肝硬変患者の症状改善の可能性がある

口腔ケアが歯の健康のみならず、全身の健康にとっても重要であることは知られている。新たな研究により、徹底した口腔ケアは肝臓の健康にも優れた効果をもたらすことが示された。バージニア州立大学と、ハンター・ホームズ・マグワイア・バージニア州医療センターの研究者らが、歯周炎治療のための定期的な口腔ケアは、肝硬変患者の腸内細菌を変化させ、炎症を軽減し、認知機能を改善させることを明らかにした。

肝硬変は、米国で流行しつつあり、肝損傷によって肝臓に瘢痕組織を形成させる疾患である。肝硬変の合併症として、全身の感染症や、進行肝疾患によって脳内に毒素が蓄積した状態である肝性脳症が生じることがある。肝性脳症の症状には、錯乱、気分変化、認知機能障害などがある。

先行研究では、肝硬変患者では腸内および唾液中の微生物叢が変化しており、これが歯周炎を発症させ、肝硬変関連の合併症のリスクを高める恐れがあることが確認された。さらに、いくつかの研究で、肝硬変患者では全身の炎症レベル上昇がみられ、これが肝性脳症に伴うものであることも示されている。

研究者らは、肝硬変および軽度~中等度の歯周炎を有する志願者の2群を調査した。1群には歯周疾患治療を実施し、もう1群には治療を行わなかった。全志願者に対して、治療前後に認知機能を評価する標準検査を実施した。

歯周疾患治療後、参加者、特に肝性脳症を有する参加者では、唾液中の内毒素産生菌数が減少しただけでなく、炎症軽減につながると思われる有益な腸内細菌数の増加も認められた。未治療群では、同時期に血液中の内毒素レベルの増加がみられた。研究チームは、治療群にみられた改善は、口腔内炎症を軽減させて全身の炎症を抑えることに寄与し、あるいは飲み込まれる細菌数の減少につながり、結果として腸内微生物叢に影響を与えている可能性があると示唆した。

研究者らによると、治療群では認知機能も改善したことから、すでに疾患に対する標準治療を受けている患者では、体内の炎症レベル低下によって肝性脳症の症状のいくつかは最小限に抑えられる可能性が示された。

「肝硬変の蔓延は、現行の治療法によっても持続する炎症および微生物の変化によって悪化している。このため、腸以外の起源を探る必要が生じ、その結果、口腔内が重要ながら無視されてきた部位であることを見出した」と、筆頭著者で同大学および医療センターの准教授のJasmohan Singh Bajaj博士は述べた。「本研究の結果が肝硬変患者の歯科検査の機会を増やすことに役立ち、歯科診療の保険範囲になることを願っています。我々歯科の仲間も本研究では欠かせない一員であり、最大限の利益を得るために、患者を個々の部位で治療するのではなく、患者を丸ごと治療する方針を維持しています」。

本研究は、「歯周疾患治療は肝硬変における口腔-腸-肝臓の治療軸を良好に調整する」というタイトルで、誌上発表に先行して、2018年8月17日にAmerican Journal of Physiology-Gastrointestinal and Liver Physiology誌オンライン版で発表された。